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eラーニング作成時の著作権基礎知識

はじめに

「このWebサイトの図、研修資料にスクショして使っても大丈夫?」

「外部講師の講演録画、社内全体や顧客に共有してもいいの?」

eラーニングの制作・運用現場では、こうした著作権の「うっかり」が大きなリスクに繋がります。本記事は、そんな担当者の不安を解消し、法的リスクを回避しながら質の高い教材を制作するための、実践的な知識を徹底的に解説します。

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eラーニングと著作権—基礎知識

デジタル化の進展で、誰もが簡単にコンテンツ製作者になれる時代。しかし、それは同時に「コピー&ペースト」による著作権侵害のリスクが常に身近にあることも意味します。

eラーニングという「著作物の集合体」を作る上で、まず押さえるべき著作権の基礎の基礎を、分かりやすく解説します。

著作権の基本的な概念

著作権とは、小説、音楽、絵画、そしてeラーニング教材のような「著作物」を創作した「著作者」に与えられる権利です。この権利は、特許権や商標権とは異なり、創作した時点で自動的に発生し、特許庁などへの登録は不要です(これを無方式主義と呼びます)。

重要なのは、著作権が保護するのは「アイデア」そのものではなく、それを具体的に表現した「表現」であるという点です。

例えば、「部下を育成する3つの方法」という「アイデア」自体は誰でも使えますが、それを解説した特定の「テキスト」や「図解」は、その制作者の著作物となります。

著作権は大きく分けて、著作者の精神的な利益を守る「著作者人格権」(公表権、氏名表示権、同一性保持権)と、経済的な利益を守る「著作権(財産権)」(複製権、公衆送信権、翻案権など)の2つで構成されています。

eラーニングにおける著作権の重要性

なぜ、eラーニングにおいて特に著作権が重要視されるのでしょうか。それは、eラーニング教材が「著作権の塊」だからです。

  • 講師のセリフ(言語の著作物)
  • スライドのテキストや図表(同上、図形の著作物)
  • 挿入される写真やイラスト(写真の著作物、美術の著作物)
  • BGMや効果音(音楽の著作物)
  • 講師の実演やナレーション(実演家の権利)
  • 動画そのもの(映像の著作物)
  • 教材を動作させるプログラム(プログラムの著作物)

これらすべてに著作権が絡んできます。

さらに、eラーニングは本やCDとは異なり、インターネットを通じて配信(公衆送信)されるため、一度侵害が発生すると瞬時に情報が拡散し、被害が甚大になりやすい特徴があります。

著作物とは何か?

著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。

少し難解ですが、ポイントは以下の2点です。

  1. 創作性があること
    • 完全に誰かの模倣ではなく、何らかの個性が表れていれば、レベルの高さは問われません。
  2. 表現であること
    • 頭の中のアイデアではなく、文字、形、色、音など、具体的に外部に表現されている必要があります。

著作物になるもの(例)

  • eラーニングのシナリオ、ナレーション原稿
  • 研修用に書き下ろしたテキスト
  • 独自に作成した図表、グラフ、イラスト
  • 撮影した動画、録音した音声
  • 社員が作成したPowerPointのスライド

著作物にならないもの(例)

  • 単なる事実、データ(例:歴史上の事実、統計データそのもの)
  • ありふれた表現、ごく短い言葉(例:「おはようございます」、キャッチフレーズ)
  • アイデア、理論、解法(例:特定のプログラミング「アルゴリズム」自体)
  • 法律、判決文、行政機関の通達など

著作権の対象となるコンテンツ

eラーニング制作で特に注意が必要なコンテンツは以下の通りです。

  • テキスト・シナリオ
    • 他者のWebサイト、ブログ、書籍、論文などからの無断転載は厳禁です。
  • 画像・イラスト
    • 「Google画像検索」で出てきた画像を安易に使うのは最も危険な行為の一つです。
    • 必ず「商用利用可」「クレジット表記不要」などのライセンスが明記された素材サイトを利用し、各サイトの利用規約を遵守する必要があります。
  • 動画
    • YouTubeなどの動画をダウンロードして教材に埋め込む行為は、公衆送信権の侵害にあたります。
    • YouTubeの「埋め込み」機能を利用する場合も、その動画が違法アップロードされたものでないか確認が必要です。
  • 音楽・BGM
    • CDや音楽配信サービスで購入した楽曲を、BGMとして無許諾で使用することはできません(私的利用の範囲を超えるため)。
    • JASRAC等の管理団体への許諾申請、または「ロイヤリティフリー」のBGM素材サイトの利用が必須です。
  • フォント
    • フォントファイルにもライセンス(使用許諾)があります。
    • 「スライドへの埋め込みはOKだが、動画テロップとしての利用は商用ライセンスが必要」といった複雑な規定もあるため、PCに標準搭載されているもの以外を利用する場合は規約の確認が必須です。

著作権が及ぶ範囲の理解

著作権(財産権)には多くの権利が含まれていますが、eラーニングで特に関連が深いのは以下の権利です。

  1. 複製権
    • 教材をコピーする権利。
    • スライドを印刷する、データをサーバーにアップロードする(この時点で複製が発生します)といった行為が該当します。
  2. 公衆送信権(自動公衆送信権)
    • インターネットを通じて、受講者がアクセスできるようにする権利。
    • eラーニングの「配信」そのものがこれにあたります。
    • LMSへの搭載、Zoomでの配信、YouTubeでの限定公開など、形態を問いません。
  3. 譲渡権・頒布権
    • 教材をCD-ROMやUSBメモリなどの媒体で「販売・配布」する権利。
  4. 翻案権
    • 教材を「改変」する権利。
    • 例えば、日本語の教材を英語に「翻訳」する、書籍の内容をeラーニング用に「要約・脚色」する、動画を短く「編集」する、といった行為はすべて翻案にあたり、元の著作者の許諾が必要です。
  5. 同一性保持権(著作者人格権)
    • 著作者の意に反して、作品の内容やタイトルを勝手に改変されない権利です。
    • 「外部講師の動画、テンポが悪いから一部カットして使おう」といった行為が、この権利を侵害する可能性があります。

これらの権利は、原則として著作者の死後70年(TPP11加盟国における基準。例外あり)まで保護されます。

eラーニングで著作権を扱う際の注意点

基礎知識を学んだところで、次は「実務」です。eラーニング制作の現場では、どのようなシーンで著作権が問題となるのでしょうか。

ここでは、担当者が最も迷いやすい「使っていいか」の判断基準と、具体的な回避策について、実例を交えながら深掘りします。

許可を得るべき場合とは?

原則は非常にシンプルです。

「他人が創作した著作物を利用する場合は、原則としてすべて許可(利用許諾)が必要」

これが大原則です。

  • Webサイトのグラフを使いたい
  • 専門家の論文の一部をスライドに載せたい
  • 業界ニュースの動画を使いたい
  • 人気キャラクターを研修のアバターに使いたい

これらはすべて、権利者の許諾が必要です。

ただし、法律はいくつかの例外を設けています。企業研修の文脈でよく勘違いされがちなのが、「私的利用」や「教育機関の特例」です。

  • 「私的利用」は適用されない
    • 「私的利用のための複製」は、あくまで「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」での利用を指します。
    • 企業の業務(たとえ非営利の社内研修であっても)は「私的利用」には該当しません。
  • 「教育機関の特例」も適用されない
    • 学校教育法で定められた「学校その他の教育機関」向けの特例です。
    • 営利・非営利を問わず、一般企業の「社内研修」はこれに該当しません。

したがって、企業のeラーニング制作においては、これらの例外に頼ることはできず、原則通り「許諾を得る」か、後述する「引用」の要件を満たす必要があります。

引用として利用できる範囲

「許諾が必要」という原則の、最も重要な例外が「引用」です。正しく「引用」のルールさえ守れば、権利者の許諾なしに他者の著作物を利用することができます。

しかし、「引用」が認められるには、文化庁が示す厳格な要件をすべて満たす必要があります。

  1. 公表された著作物であること
    • 未公表の論文や、内密の書簡などは引用できません。
  2. 引用部分と自己の著作物が「主従関係」にあること
    • これが最重要です。自分のコンテンツが「主」、引用部分が「従」(補足や具体例)でなければなりません。
    • スライドの大部分が他者の文章や図表で、自分の意見が数行しかない、といった場合は「引用」とは認められません。
  3. 引用部分が明瞭に区分されていること
    • かぎ括弧(「」)でくくる、背景色を変える、ブロッククオート(>)を使うなどして、本文と引用部分が明確に区別できるようにしなければなりません。
  4. 引用の「公正な慣行」に合致し、「目的上正当な範囲」であること
    • 引用する「必要性」があることが前提です。
    • 不必要に長く引用したり、関係のない文脈で利用したりすることはできません。
  5. 出所の明示
    • 著者名、作品名、Webサイト名、URL、発行年など、引用元を明記する義務があります。

eラーニングでの実践例

  • NG例
    • 統計データを解説するスライドで、他社の調査レポートのグラフをドンと大きく貼り付け、ナレーションが「ご覧の通りです」とだけ言う。(主従関係が逆転)
  • OK例
    • 「当社の現状分析」というスライドで、自社の分析をテキストで詳細に記述した上で、「この傾向は他社調査でも裏付けられています」として、調査会社のグラフを小さく挿入し、「(出所:〇〇総合研究所「△△調査レポート」2024年)と明記する。(主従関係が明確)

著作権侵害を避けるためのベストプラクティス

著作権トラブルを防ぐための、制作現場で実践すべき行動指針です。

  1. 迷ったら「使わない」か「許諾を取る」
    • 「これくらいなら大丈夫だろう」という安易な判断が最も危険です。
    • 判断に迷う素材は、使わないか、権利者に問い合わせて許諾(メールなど書面での証拠)を得るのが鉄則です。
  2. 「自作(オリジナル)」を第一に
    • テキスト、図表、イラストは、可能な限り自社で作成するか、社内のリソースで制作します。これが最も安全な方法です。
  3. 「ライセンス」を必ず確認する
    • ストックフォトやBGM素材を利用する際は、必ず利用規約を熟読します。
    • 「商用利用可」か?「クレジット表記は必要か?」 「eラーニング(公衆送信)での利用は許可されているか?」「販売目的の教材(有料講座)でも使えるか?」「改変(トリミングや編集)は可能か?」を確認します。
  4. 生成AIの利用は「規約」と「補償」で選ぶ
    • ChatGPTやMidjourneyなどの生成AIを利用する場合、学習データ(インプット)の著作権問題と、生成物(アウトプット)の権利問題が絡みます。
    • ビジネスで利用する場合は、学習データがクリーンであること、そして生成物の商用利用を認め、かつ万が一の権利侵害時に補償を提供しているツールを選ぶことが賢明です。
  5. 「権利クリアランス台帳」を作成する
    • 教材(コース)ごとに、使用した素材(画像、BGM、引用文献など)の一覧、その出所、ライセンスの種類、許諾の有無・範囲を記録した台帳を作成します。これにより、将来的な確認やリスク管理が容易になります。

企業が注意すべき法律と判例

前述の通り、企業活動において「私的利用」や「教育機関の特例」は適用されません。

判例(過去の裁判例)では、Webサイト上の画像や記事の無断転載(複製権、公衆送信権の侵害)で、高額な損害賠償が命じられるケースが後を絶ちません。

特にeラーニングのような「販売」を伴う(BtoCやBtoBでの有料講座)場合、侵害行為による「逸失利益(本来得られたはずの利益)」の算定が大きくなりやすく、賠償額も高額になる傾向があります。

また、著作権法だけでなく、肖像権やパブリシティ権にも注意が必要です。

  • 肖像権
    • 人の顔や姿を無断で撮影・公表されない権利。
    • 街中の風景に偶然映り込んだ程度なら問題ないことが多いですが、特定の個人が識別できる形で教材に利用する場合は、その人の許諾が必要です。
  • パブリシティ権
    • 有名人(タレント、スポーツ選手など)が持つ、その氏名や肖像が持つ経済的価値(顧客吸引力)に対する権利。有名人の写真を無断で教材に使うと、この権利の侵害に問われます。

インターネット上の情報を扱うときの注意

インターネットは「無料の素材置き場」ではありません。Webサイト、ブログ、SNS(X, Instagram)、YouTubeなど、ネット上のあらゆるコンテンツは、基本的に誰かの著作物です。

  • スクリーンショット(スクショ)
    • Webサイトの画面をキャプチャする行為は「複製」にあたります。
    • 前述の「引用」の要件を満たさない限り、無断で教材に利用することはできません。
  • 埋め込み
    • YouTubeの動画などを「埋め込み」コードで自社サイトに表示する行為は、現在のところ、サーバーにデータをコピーするわけではないため、著作権侵害(複製権・公衆送信権)にはあたらないとする見解が主流です。
    • ただし、埋め込み元の動画が「違法にアップロードされたもの」と知りながら埋め込むと、侵害の幇助(ほうじょ)と見なされるリスクがあります。公式チャンネルなど、信頼できる配信元からの埋め込みに限定すべきです。
  • SNSの投稿
    • 個人のX(旧Twitter)のポストやInstagramの写真を引用の範囲を超えて利用する場合も、本人の許諾が必要です。
  • 企業ロゴ
    • 他社のロゴマークには「著作権」だけでなく「商標権」も関わります。
    • 例えば、操作説明のために他社ツールのロゴを表示する程度は問題ありませんが、自社の優位性を示すために他社ロゴを比較対象として貶めるような使い方をすると、商標権侵害や不正競争防止法違反に問われる可能性があります。

著作権侵害のリスクとその影響

「バレなければいい」という考えは、もはや通用しません。eラーニングがWeb上で配信される以上、権利侵害は瞬時に発見・拡散される可能性があります。

ここでは、万が一著作権を侵害してしまった場合に、企業が直面する具体的なリスクとその深刻な影響について解説します。

企業にとってのリスクと影響

著作権を侵害した場合、企業が負うリスクは「法律」「経済」「信用」の3つの側面に大別されます。

  1. 法律上のリスク(刑事罰)
    • 著作権侵害は犯罪です。
    • 個人の場合「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」、またはその両方が科される可能性があります。
    • さらに、法人が侵害した場合は「両罰規定」が適用され、行為者を罰するだけでなく、法人に対しても「3億円以下の罰金」という極めて重いペナルティが課される可能性があります。
  2. 経済的リスク(民事)
    • 損害賠償請求
      • 権利者が被った損害(例:ライセンス料、侵害者が得た利益)の賠償を求められます。
    • 差止請求
      • 侵害行為(eラーニングの配信停止、教材の廃棄)を求められます。
    • コストの発生
      • 訴訟対応のための弁護士費用、そして侵害が確定した場合、該当教材の「作り直し(差替え)」にかかる制作費や人件費が発生します。
  3. 信用的リスク(レピュテーション)
    • 企業イメージの失墜
      • 「コンプライアンス意識の低い会社」というレッテルが貼られ、取引先や顧客(受講者)からの信用を失います。
    • 炎上リスク
      • SNSなどで侵害の事実が拡散され、不買運動や採用活動への悪影響に繋がる可能性もあります。

eラーニング教材は、一度配信すると受講者の手元にデータが残ったり、Web上にキャッシュが残ったりするため、被害の回復(侵害状態の完全な停止)が困難な場合があり、リスクが長期化しやすい特徴があります。

訴訟の可能性とその防止策

訴訟は、企業にとって時間、コスト、信用のすべてを奪う最悪のシナリオです。前述のような巨額の賠償金や罰金に至るケースは稀だとしても、訴訟一歩手前の「内容証明郵便」が届き、示談交渉(数百万円の示談金支払い)に発展するケースは少なくありません。

訴訟を防ぐための最大の防止策は、本記事で繰り返し述べている「予防」に尽きます。

  1. 契約書の整備
    • 外部講師や制作会社との契約で、権利の帰属や利用範囲を明確にします(詳細は次章)。
  2. 社内教育の徹底
    • 制作担当者だけでなく、企画担当者、営業担当者も含め、全社的に著作権の基本知識を周知徹底します。
  3. チェック体制の構築
    • 企画段階、制作段階、公開段階で、法務部や専門知識を持つ担当者が権利関係をチェックするワークフローを確立します。
  4. 「権利クリアランス台帳」の運用
    • どの教材に、誰の、どのような権利(ライセンス)の素材が使われているかを、即座に答えられる状態にしておきます。

侵害が発覚した場合の対処方法

万が一、権利者や第三者から「著作権を侵害している」との指摘を受けた場合、または社内で侵害の疑いが発覚した場合は、以下の手順で迅速かつ誠実に対応する必要があります。

  1. 事実確認(最優先)
    • まず、指摘された内容が事実か(本当にその著作物を使っているか)、法的に侵害にあたるか(許諾の有無、引用の成否)を、法務部や弁護士などの専門家と連携して迅速に調査します。
  2. 即時公開停止
    • 調査の結果、侵害の可能性が高いと判断された場合、または調査に時間がかかるがリスクが高いと判断された場合は、直ちに該当するeラーニング教材の配信を停止します。
  3. 権利者への連絡・謝罪
    • 事実確認と並行し、速やかに権利者に連絡を取ります。
    • 侵害の事実が確認された場合は、誠意をもって謝罪します。
    • この初期対応が、その後の交渉(示談)を大きく左右します。
  4. 交渉
    • 権利者の要求(損害賠償、使用料の遡及支払い、再発防止策の提示など)に基づき、示談交渉を行います。
  5. 再発防止策の策定
    • 社内のチェック体制や教育体制を見直し、同じ過ちを繰り返さないための具体的な再発防止策を策定し、必要に応じて公表します。

絶対にしてはいけないことは、「無視する」「隠蔽する」「データをこっそり削除して『そんな事実はなかった』と主張する」ことです。これらは状況を悪化させ、法廷での心証を著しく害し、結果として企業の損害を最大化させます。

知的財産権と企業価値の保護

視点を変えると、eラーニング教材は「他者の著作物」に配慮する対象であると同時に、制作した企業にとっては「自社の重要な知的財産」そのものです。

多大なコストと時間をかけて制作したeラーニング教材が、競合他社に無断でコピーされたり、受講者に不正にダウンロード・再配布されたりすれば、自社が大きな損害を被ります。

他者の権利を守るコンプライアンス体制を構築することは、裏を返せば、自社の権利(知的財産)が侵害された際に、法的に堂々と権利を主張するための基盤を整えることにも繋がります。

自社の教材という「資産」を守るためにも、著作権の知識は不可欠です。

創作者としての立場を守るために

これは、制作会社や外部講師、デザイナーといった「制作者」側の視点です。eラーニング制作を受託する際、契約が曖昧だと、納品した成果物が自分たちの意図しない範囲(例:当初は社内利用限定だったはずが、有料講座として販売された)で利用されたり、勝手に改変されたりするリスクがあります。

自らが「創作者」として持つ権利(著作権)を守るためにも、契約書で「著作権の帰属(譲渡するのか、許諾するのか)」や「利用範囲(利用目的、期間、地域、媒体)」を明確に定義することが極めて重要です。発注側・受注側双方が権利を正しく理解し、尊重し合う関係が、健全なeラーニング市場の発展に繋がります。

著作権取得の手続きとライセンス契約

著作権は、創作と同時に発生する「無方式主義」が原則ですが、実務では「誰が権利を持つか」を明確にすることが不可欠です。特に外部委託や素材調達が絡むeラーニングでは、ライセンス契約の知識が、後のトラブルを防ぐ最大の防御策となります。

著作権登録の方法とその意味

前述の通り、著作権は「登録」しなくても発生します。では、文化庁が管轄する「著作権登録制度」とは何でしょうか。

これは、特許や商標のように「権利を発生させる」ためのものではなく、主に以下の点を「公的に証明」しやすくするための制度です。

  • 実名登録
    • 匿名やペンネームで公表した作品の、本物の著作者名を登録する。
  • 第一発行年月日登録
    • いつ最初に発行・公表されたかを登録する。
  • 創作年月日登録
    • プログラムの著作物に限り、いつ創作されたかを登録する。
  • 著作権の移転登録
    • 権利が譲渡されたり、ライセンスされたりした事実を登録する。

eラーニング実務での意味

著作権登録は必須ではありません。しかし、万が一「どちらが先に作ったか」で訴訟になった場合、登録しておくと強力な証拠となります。

特に、高額な予算を投じた基幹教材や、販売の柱となるeラーニングプログラムなどは、その創作日や権利関係を明確にするために登録を検討する価値があるかもしれません。

ライセンス契約の種類と選び方

eラーニング制作で外部(制作会社、フリーランス講師、イラストレーターなど)に発注する際、成果物の著作権の取り扱いは、契約の根幹となります。

1. 著作権の「譲渡」契約

最も強力な契約です。「成果物の著作権(著作者人格権を除く財産権)は、対価の支払いをもって、すべて発注者(貴社)に移転する」という内容です。
これにより、発注者はその教材を自由に複製、改変(翻案)、配信、販売(二次利用)できます。

  • 注意点
    • 著作者人格権
      • 譲渡できない権利(同一性保持権など)があるため、「著作者人格権を行使しない」という「不行使特約」を必ず盛り込む必要があります。
      • これがないと、納品後のちょっとした編集(例:動画のテロップ修正、講師の「えー」をカット)も、講師(著作者)の「同一性保持権の侵害だ」と言われるリスクが残ります。
    • 二次利用
      • 譲渡契約であっても、「eラーニングでの利用」と限定した場合、DVD化や書籍化といった「二次利用」の範囲が含まれるか、明記しておくことが望ましいです。

2. 著作権の「利用許諾(ライセンス)」契約

著作権はクリエイター側に残したまま、発注者は「特定の範囲で利用する権利」だけを得る契約です。
「社内研修でのみ利用可」「2025年までの1年間のみ配信可」「有料販売は不可」といった形で、利用目的、期間、地域、媒体を細かく制限するのが一般的です。

  • メリット
    • 譲渡に比べて、発注者側の費用を安く抑えられる可能性があります。
  • デメリット
    • 契約範囲を超える利用(例:社内用だった教材を、評判が良いから顧客向けに販売する)をしたい場合、その都度クリエイターの追加許諾と追加料金が必要になります。

どちらを選ぶべきか?

  • 汎用的に、長期的に、改変しながら使いたい(例:企業の基幹となるコンプライアンス教材):譲渡(+不行使特約)が望ましい。
  • 一時的に、特定の目的で使いたい(例:最新トレンドに関する外部専門家の単発講演):利用許諾で十分な場合が多い。

著作権料の管理と支払い方法

ライセンス契約とセットで、対価の支払い方を決めます。

  • バイアウト
    • 制作・発注時に「一括払い」で対価を支払い、その後の利用(契約範囲内)については追加費用が発生しない方式。
    • 譲渡契約や、広範囲の利用許諾契約で好まれます。発注者側は予算管理がしやすいメリットがあります。
  • ロイヤリティ
    • eラーニングの売上や受講者数に応じて、「売上の〇%」や「受講者1人あたり〇円」といった形で、継続的に対価を支払う方式。
    • 販売目的のBtoC講座などで見られます。

制作会社や講師とのトラブルの多くは、この「支払い」と「利用範囲」の認識のズレから生じます。契約時に徹底的に明確化することが不可欠です。

オープンソースや無料素材の活用法

コストを抑えるために、無料の素材やオープンソースのツールを使いたいというニーズは高いでしょう。しかし、「無料」ほどライセンス確認が重要なものはありません。

  • パブリックドメイン
    • 著作権の保護期間が切れたもの(例:著者の死後70年以上経過した文学作品、古い絵画)や、著作者が権利を放棄したものです。自由に利用できます。
  • クリエイティブ・コモンズ
    • 著作者が「この条件を守れば自由に使っていいですよ」という意思表示をするためのライセンスです。以下の4つの記号の組み合わせで示されます。
      • BY(表示)
        • 必須。著作者のクレジット(名前、作品名、ライセンス)を表示する必要があります。
      • NC(非営利)
        • eラーニングでは最重要。
        • この記号がある素材は、「非営利」目的でしか使えません。
        • 企業の有料講座はもちろん、直接の売上がなくても、企業の事業活動(社内研修、マーケティング目的の無料ウェビナーなど)での利用は「営利」と見なされる可能性が非常に高いため、NC素材は使わないのが無難です。
      • ND(改変禁止)
        • その素材を改変(トリミング、色変更、要約、翻訳)してはいけません。
      • SA(継承)
        • その素材を改変して作った新たな作品も、元と同じCCライセンス(SA)で公開しなければなりません。

eラーニングで安全に使えるCCライセンスは?

  • CC BY: クレジット表記すれば、改変も商用利用もOK。
  • CC BY-SA: 改変・商用利用OKだが、自社の教材にもSAライセンスが付くため、使い所が難しい。
  • 避けるべき: CC BY-NC, CC BY-NC-ND など、「NC」が付くもの。

特許や商標との違いと併用ケース

知的財産権には、著作権の他にも重要な権利があります。

権利 保護対象 保護の仕方 eラーニングでの例
著作権 表現(テキスト、動画) 創作と同時に発生 教材のシナリオ、動画、スライドのデザイン
特許権 発明(技術的なアイデア) 審査・登録が必要 独自の学習進捗管理システム、新しいLMSのアルゴリズム
商標権 ブランド(名前、ロゴ) 審査・登録が必要 eラーニング講座の「タイトル名」、サービス「ロゴマーク」
肖像権 人の顔や姿 法律上の明文はないが、判例で確立 講師や、受講者として映り込む人の顔

併用ケース

貴社が「A」という名称の画期的なeラーニング講座(独自の学習メソッド=特許、講座名=商標、教材動画=著作物)を開発した場合、これらすべての権利で多角的に保護する必要があります。

eラーニング教材を作る際に役立つ著作権の心得

法律や契約も重要ですが、最終的には「創作者へのリスペクト」が根幹にあります。eラーニングという「知の共有」を健全に行うため、担当者が常に心に留めておくべき「心得」と、未来の課題(国際化、AI)への向き合い方について、まとめます。

創作者としての権利と責任

eラーニングの制作者は、「他者の著作物を利用する側」であると同時に、新たな教材を生み出す「創作者」でもあります。

「自分が苦労して作ったスライドや動画が、もし無断でコピーされたらどう思うか?」

この視点を持つことが、著作権コンプライアンスの第一歩です。

他者の創作に敬意を払い、正当な対価(ライセンス料)を支払う。そして、自らが作った作品の権利も適切に管理する。この「権利と責任」のバランス感覚が、担当者には求められます。

共同著作の場合の権利の取り扱い

eラーニング教材は、一人の天才によって作られることは稀です。

  • 監修者
  • シナリオライター
  • イラストレーター
  • 動画編集者
  • ナレーター

これら複数の人々が関わる「共同著作物」となるケースがほとんどです。
この場合、「誰がどの部分の権利を持つのか」が非常に曖昧になりがちです。

  • トラブル防止策
    • プロジェクト開始前に、参加者全員との間で、「最終的な成果物の著作権は、すべて発注者であるA社に譲渡する」といった内容の合意書(契約書)を取り交わしておくことが不可欠です。

国際的な著作権法とその解釈

著作権は、ベルヌ条約などの国際条約により、世界中で保護されています(相互主義)。日本で創作された著作物は、米国や欧州でも原則として保護されますし、その逆も同様です。

eラーニングでの注意点

  • グローバル配信
    • 日本の教材を海外支社で利用したり、多言語(翻訳・翻案)して海外で販売したりする場合、配信先の国の法律(例:米国の「フェアユース」規定など)も考慮が必要になる場合があります。
  • 素材の調達
    • 海外の素材サイトを利用する場合、そのライセンスが日本国内での利用(公衆送信)をカバーしているか、契約書をよく読む必要があります。
  • EUのGDPRなど
    • 著作権だけでなく、個人情報保護(特に受講者の学習履歴)に関して、EUのGDPR(一般データ保護規則)のような厳格な規制に対応する必要が出てくる場合もあります。

オンラインプラットフォームでの教材共有ガイドライン

ZoomやMicrosoft Teamsでのウェビナー(講演)を録画し、それをeラーニング教材として二次活用したい、というニーズは非常に多いです。

このとき、著作権以上に問題となるのが「肖像権」と「プライバシー権」です。

  • 講師の権利
    • 講師の「話している姿」や「声」は、肖像権やパブリシティ権、著作隣接権(実演家の権利)で保護されます。
    • 録画・二次利用(オンデマンド配信)については、必ず事前に書面で「利用目的(例:社内限定公開か、有料販売か)」「利用期間」を明記した上で許諾を得る必要があります。
  • 参加者の権利
    • 録画に、他の受講者の「顔」「声」「氏名(Zoomの表示名)」「チャットの書き込み」が含まれる場合、これらもすべて個人情報であり、肖像権・プライバシー権の対象です。
      • 対策
        • ウェビナー開始前に「本セッションは録画し、後日教材として利用します。お顔や声が映り込むことを望まない方は、カメラ・マイクをオフにしてください」と明確にアナウンスし、「黙示の同意」を得る。
        • より安全なのは、録画データから参加者の顔や名前、チャット欄が見えないように、講師の画面(とスライド)だけを録画・編集する。
        • 質疑応答(Q&A)の部分はカットするか、音声のみにし、個人が特定できないよう編集する。

コンテンツ保護とセキュリティのポイント

最後に、自社の大切なeラーニング教材(著作物)を、受講者による不正利用(侵害)から守るための視点です。

  1. 技術的保護(DRM)
    • ダウンロードを禁止し、ストリーミング配信のみにする。
    • 特定のIPアドレスからのみアクセス可能にする(社内利用)。
    • 動画に電子透かし(Watermark)を入れ、流出元を特定できるようにする。
    • 右クリックやスクリーンショットを技術的に禁止する(ただし、完全な防止は困難)。
  2. 法的保護(利用規約)
    • eラーニングの受講開始前に、すべての受講者に「利用規約」への同意を求めます。
    • 規約には、「本コンテンツの著作権は〇〇社に帰属します」「コンテンツの録音、録画、スクリーンショット、複製、二次配布、SNSへのアップロードを固く禁じます」「違反した場合は、法的措置を講じるとともに、受講資格を剥奪します」といった禁止事項と罰則を明確に記載します。

技術と法律の両面から自社のコンテンツを守る体制を整えること。これもまた、eラーニング担当者の重要な責務です。

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1. わかりやすいUIと統合型の運用機能

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2. あらゆる教材形式に対応した柔軟性

動画、PDFなど、幅広いコンテンツ形式を簡単にアップロード可能。インタラクティブな教材作成もスムーズに行えるため、最新のトレンドに即した学習体験をスピーディーに提供できます。

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4. 学習状況の可視化と継続的な改善

ダッシュボード上で受講データやテスト結果をリアルタイムに分析。得られた学習データをもとに教材の改善が行えるため、研修効果を継続的に向上させることができます。これにより、教育コストの最適化とスキル向上の両立が可能になります。

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