
はじめに
「明日使う研修資料、Webからコピペしたその画像、本当に大丈夫ですか?」
『社内用だから』『教育目的だから』という安易な判断が、数千万円規模の訴訟リスクに繋がることも。この記事では、研修担当者、人事・法務担当者が知るべき著作権の全知識と、明日から使える安全な資料作成術を、事例とチェックリストを交えて徹底解説します。
その資料、配布する前に一度立ち止まってください。
関連記事
- はじめに
- 著作権とは何か
- 研修資料における著作権の重要性
- 社内研修資料作成時の著作権チェックリスト
- 著作権侵害を避けるための法的知識
- 著作権に関する最新動向
- 研修でeラーニングを使うならWisdomBase
著作権とは何か

「著作権」と聞くと、難解な法律を想像しがちですが、その基本は「創った人の権利を守る」というシンプルなルールです。しかし、この基本の理解を誤ると、意図せず他者の権利を侵害してしまうことになります。
この章では、研修資料作成に不可欠な「何を」「いつから」「いつまで」守るのか、その根幹を解説します。知っているようで知らないこの基本が、最大のリスク回避策となります。
著作権の基本定義
著作権とは、知的財産権の一つであり、思想や感情を創作的に表現した「著作物」を保護するための権利です。この権利は、著作者に自動的に与えられ、他人がその著作物を無断で利用(コピー、上映、配布、改変など)することを禁止する力を持っています。
著作権は、大きく分けて2つの権利から成り立っています。
- 著作者人格権
- 著作者の「心」や「名誉」を守る権利です。
- 公表権
- 未公表の著作物を公表するかどうか、いつ公表するかを決める権利。
- 氏名表示権
- 著作物に自分の名前(実名またはペンネーム)を表示するかどうかを決める権利。
- 同一性保持権
- 著作物の内容やタイトルを、著作者の意に反して改変されない権利。
これらは著作者固有の権利であり、他人に譲渡したり、相続したりすることはできません。
- 著作権(財産権)
- 著作物の利用を許可し、それによって経済的な利益を得るための権利です。
- 複製権
- コピーする権利
- 上演権・演奏権
- 公に演じる権利
- 上映権
- スクリーンなどに映す権利
- 公衆送信権
- インターネットや放送で送信する権利。
- eラーニングやWeb会議での配信はこれに該当します。
- 口述権
- 朗読などで公に伝える権利
- 展示権
- 美術品などを展示する権利
- 頒布権
- 映画の著作物を配布する権利
- 譲渡権
- 著作物のオリジナルやコピーを他人に譲渡する権利
- 貸与権
- 著作物のコピーを貸し出す権利
- 翻訳権・翻案権
- 翻訳、編曲、脚色、データベース化など、著作物を改変する権利
これらの権利は、財産として他人に譲渡したり、利用を許諾(ライセンス)したりすることが可能です。研修資料で問題となるのは、主にこの財産権の侵害です。
著作権が保護する対象
著作権法が保護する「著作物」とは、具体的にどのようなものでしょうか。文化庁の定義によれば、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています。
研修資料で特に関係が深いのは以下のものです。
- 言語の著作物
- 書籍、論文、記事、マニュアル、Webサイトのテキスト、講演内容、SNSの投稿
- 音楽の著作物
- BGM、効果音(※メロディやハーモニーが創作的なもの)
- 美術の著作物
- イラスト、絵画、写真、グラフ、図表、地図、会社のロゴマーク
- 図形の著作物
- 設計図、地図
- 映画の著作物
- 映画、YouTube動画、アニメーション、研修用に撮影した動画
- コンピュータ・プログラム
- ソフトウェアのソースコード、UIデザイン
- データベースの著作物
- 情報の「選択」または「体系的な構成」に創作性があるもの
逆に、以下のものは著作物として保護されません。
- 単なる「事実」や「データ」
- ニュースの事実そのもの(それを伝える記事は著作物)、歴史的な出来事、統計データそのもの(統計グラフは著作物になる場合がある)
- 「アイデア」や「理論」
- ノウハウ、ビジネスモデル、アルゴリズムそのもの(それを説明した文章や図は著作物)
- ごく短い表現
- スローガン、キャッチコピー、ありふれた題名(※創作性が認められる場合は保護対象になることもあります)
著作権が発生するタイミング
日本が加盟しているベルヌ条約では、「無方式主義」が採用されています。これは、著作権が「著作物が創作された時点」で自動的に発生するという原則です。
特許権や商標権のように、特許庁や文化庁への「登録」や「出願」といった手続きは一切不要です。著作者がイラストを描き終えた瞬間、ライターが記事を書き終えた瞬間、プログラマーがコードを書き上げた瞬間に、著作権は法的に保護されます。
この「無方式主義」は、研修資料を作成する上で非常に重要です。Web上で見つけた「©」マークや「Copyright」の表記がない画像や文章であっても、そのほとんどに著作権が発生していると考えるべきです。「何も書いていないから自由に使って良い」という判断は、最も危険な誤解の一つです。
著作権の登録について
前述の通り、著作権の発生に登録は不要です。しかし、著作権法には「登録制度」が存在します。これは何のためにあるのでしょうか。
文化庁が所管する著作権の登録制度は、主に「権利関係を公示するため」や「法律上の推定を得るため」に利用されます。
- 実名の登録
- ペンネームなどで公表した著作物の著作者が、自分の実名を登録することができます。
- 第一発行年月日等の登録
- 著作物が最初に発行(または公表)された年月日を登録できます。
- 権利の移転等の登録
- 著作権(財産権)を譲渡したり、質権を設定したりした場合、その内容を登録できます。
これらの登録は、権利の「発生要件」ではありません。しかし、例えば著作権を譲り受けた場合、登録しておかなければ、その後に二重で譲り受けた第三者に対して自分が権利者であることを主張(対抗)できません。
つまり、著作権登録は、権利が侵害された際の訴訟や、権利の取引をスムーズに行うための「証拠保全」や「対抗要件」としての意味合いが強いものです。研修資料の作成者が日常的に利用するものではありませんが、M&Aや事業譲渡で他社の研修コンテンツ(eラーニング等)をまとめて取得する際には、こうした権利移転の登録が重要になる場合があります。
著作権の保護期間
著作権は永遠に保護されるわけではありません。社会全体の文化的な発展のため、一定の期間が経過した著作物は「パブリックドメイン」となり、社会の共有財産として誰でも自由に利用できるようになります。
- 個人の著作物(実名・ペンネーム)
- 原則として、「著作者の死後70年」まで保護されます。
- 無名・変名(ペンネームが周知でない)の著作物
- 「公表後70年」まで保護されます。
- 団体名義(法人名義)の著作物
- 企業名や団体名で公表された著作物(例:企業が作成したマニュアル、報告書)は、「公表後70年」まで保護されます。
- もし創作から70年以内に公表されなかった場合は、創作後70年で保護期間が満了します。
- 映画の著作物
- 「公表後70年」まで保護されます。
研修資料で扱うコンテンツ(書籍、Web記事、写真、動画)のほとんどは、この保護期間内にあります。したがって、資料作成時には「ほぼ全てのコンテンツに著作権があり、保護期間中である」という前提に立つ必要があります。
研修資料における著作権の重要性

「たかが社内資料」「クローズドな研修だから」という認識が、企業の信用と財務に深刻な打撃を与えかねません。ここでは、企業研修特有のリスクと、実際に起きた「うっかり侵害」の構図を紹介します。
コンプライアンスが厳格化する現代において、著作権管理はもはや「守り」ではなく「必須」の業務であり、担当者のリテラシーが組織全体のリスクを左右します。
企業における研修資料の著作権リスク
企業活動における著作権侵害は、個人間のトラブルとは比較にならないほど深刻な結果を招きます。研修資料作成担当者が認識すべき主なリスクは以下の通りです。
- 民事上の責任(損害賠償・差止請求)
- 権利者から、侵害行為の停止(資料の回収・破棄、Web掲載の削除)を求める「差止請求」を受ける可能性があります。研修直前にこれが起きれば、研修自体の実施が不可能になります。
- また、侵害によって権利者が被った損害、あるいは侵害者が得た利益に基づき、高額な「損害賠償請求」が行われます。数千万円から数億円規模の賠償が命じられるケースも珍しくありません。
- 刑事上の責任(罰則)
- 著作権侵害は犯罪であり、刑事罰の対象となります。
- 侵害した個人(資料作成者)は、「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)」という重い罰則を科される可能性があります。
- さらに、法人の業務として侵害行為が行われた場合、その行為者個人だけでなく、法人(会社)に対しても「3億円以下の罰金」が科される「両罰規定」が適用されます(著作権法第124条)。研修担当者個人の問題では済まされません。
- 社会的信用の失墜
- 著作権侵害が発覚し、報道されれば、「コンプライアンス意識の低い会社」「他社の権利を尊重しない会社」というネガティブなレッテルが貼られます。
- これにより、取引先との関係悪化、優秀な人材の採用難、顧客離れなど、金銭では測れない甚大なダメージを受けることになります。
正しい著作権管理の方法
リスクを回避し、安全に研修を実施するためには、場当たり的な対応ではなく、組織的な著作権管理体制の構築が不可欠です。
- 管理台帳の作成
- 研修資料で使用した第三者の著作物(画像、文献、動画など)について、「出典」「権利者」「利用許諾の状況(許諾日、許諾範囲、担当者)」を記録する台帳を作成・管理します。
- これにより、利用範囲の逸脱を防ぎ、将来的な確認にも対応できます。
- 社内承認フローの確立
- 資料の作成担当者だけで完結させず、配布・公開前に法務部門や知財部門、あるいは著作権に知見のある管理職がチェックするフローを確立します。
- 特に、社外公開やeラーニング化する資料は、必須のプロセスとすべきです。
- 権利クリアな素材の調達
- リスクのある素材(Web検索で見つけた出所不明な画像など)の使用を原則禁止し、代わりに以下の安全な素材の利用を徹底します。
- 自社で作成した著作物(自社の社員が撮影した写真、作成した図表)
- 有償の素材サイトとの法人契約
- ライセンスが明確な無償素材サイト(利用規約を熟読・遵守することが条件)
- 著作権フリー(パブリックドメイン)の素材
- リスクのある素材(Web検索で見つけた出所不明な画像など)の使用を原則禁止し、代わりに以下の安全な素材の利用を徹底します。
- 契約書の整備:
- 外部講師に研修を依頼したり、資料作成を外注したりする場合は、契約書に「著作権の帰属」と「利用許諾範囲」を明記することが極めて重要です(詳細は後述)。
著作権違反の事例
研修現場では、以下のような「うっかり侵害」が後を絶ちません。これらはすべて著作権侵害(主に複製権や公衆送信権の侵害)にあたる可能性が非常に高い行為です。
- 事例1:Web画像の無断転載
- 内容
- Google画像検索で見つけた分かりやすいイラストや写真を、出典を明記せず(あるいは明記しただけで)研修スライドに貼り付け、全社配布した。
- リスク
- 画像の権利者(写真家、イラストレーター、ストックフォト運営会社)から、高額なライセンス料や損害賠償を請求される。権利者は画像検索技術で無断利用を容易に発見できます。
- 内容
- 事例2:書籍・雑誌の無断スキャンとPDF配布
- 内容
- 研修の参考資料として、市販の専門書やビジネス雑誌の特定章をスキャン(複製)し、PDFファイルにして社内ポータルサイトにアップロードした(公衆送信)。
- リスク
- 出版社や著者から、複製権および公衆送信権の侵害として訴えられる。
- 内容
- 事例3:市販ソフトウェアの無許諾インストール
- 内容
- 研修で使用するため、PC1台分のライセンスしかない特殊なソフトウェアを、研修室のPC20台に無断でコピー(複製)してインストールした。
- リスク
- これは著作権侵害であると同時に、深刻なライセンス違反です。
- 「BSA | The Software Alliance」などの業界団体による監査や通報により発覚した場合、正規ライセンス料との差額に加え、多額の賠償金が発生します。
- 内容
- 事例4:YouTube動画の無断ダウンロードと利用
- 内容
- 研修の導入として参考になるYouTube動画をダウンロードし、オフライン環境の研修で再生したり、自社のeラーニング教材に組み込んだりした。
- リスク
- YouTubeの利用規約では、原則としてダウンロードは許可されていません。
- これを無断で行うことは複製権の侵害であり、さらにそれを教材として利用することは公衆送信権や上映権の侵害にあたります。
- 内容
研修資料著作権のライセンス契約
外部の専門家(講師)や制作会社に研修資料の作成を委託する場合、著作権の取り扱いは最大の注意点です。口約束や曖昧な認識のまま進めると、後で「録画した動画を再利用できない」「資料を修正できない」といった深刻なトラブルに発展します。
契約書で必ず明確にすべき項目は以下の通りです。
- 著作権の帰属
- 成果物(スライド、動画、テキスト)の著作権(財産権)が、委託元(自社)に移転(譲渡)されるのか、それとも受託者(講師・制作会社)に留保(帰属)されるのかを明記します。
- 「譲渡する」場合は、自社で自由に改変・二次利用が可能になります。
- 「帰属する」場合は、自社はあくまで「利用者」であるため、以下の「利用許諾範囲」が極めて重要になります。
- 利用許諾範囲(ライセンススコープ)
- 著作権が講師側に帰属する場合、「何を」「どこまで」利用して良いかを具体的に定めます。
- 利用目的(例:「社内新人研修での利用に限る」)
- 利用期間(例:「2026年3月末まで」)
- 利用態様:
- 録画・録音の可否
- eラーニング(LMS)での配信の可否
- 資料の複製・配布(PDF化)の可否、およびその部数
- 資料の改変・編集の可否
- 社外(グループ会社、取引先)への公開の可否
- 著作者人格権の不行使特約
- たとえ著作権(財産権)を譲り受けても、著作者人格権(同一性保持権など)は著作者に残ります。
- 受託者(講師)が「この資料の表現を勝手に変えるな」と主張する権利(同一性保持権)を持っていると、自社で資料のアップデートや修正ができなくなってしまいます。
- これを避けるため、契約書に「受託者は、委託元および委託元が指定する者に対し、著作者人格権を行使しない」という「不行使特約」を盛り込むのが一般的です。
社内での著作権教育の重要性
これらすべてのリスクと対策の根幹にあるのは、「研修資料を作成する社員一人ひとりのリテラシー」です。法務部門だけが知識を持っていても、現場の担当者が「知らなかった」で侵害を起こしてしまっては意味がありません。
- 定期的な研修の実施
- 全社、あるいは少なくとも資料作成の可能性がある部門(人事、研修、広報、営業企画など)を対象に、著作権の基本と社内ルールに関する研修を定期的に(最低年1回)実施することが不可欠です。
- 「教育目的=合法」の誤解を解く
- 「学校その他の教育機関における複製等」は、営利を目的としない学校教育などへの例外規定です。
- 企業の営利活動の一環である社内研修には、原則として適用されません。この最大の誤解を、教育を通じて徹底的に解消する必要があります。
- 相談窓子の周知
- 「迷ったら、使うな。まず相談せよ」という原則を徹底し、法務部門や知財部門の相談窓口を明確にし、気軽に質問できる文化を醸成することが、インシデントの未然防止に繋がります。
社内研修資料作成時の著作権チェックリスト

理論は分かっていても、実践の場で迷うのが著作権です。「この画像、使える?」「この引用、どこまで大丈夫?」そんな現場の疑問に即答するため、実践的なチェックリストを用意しました。
資料を配布・公開する前に、このリストで最終確認を行う癖をつけましょう。これが、あなたと会社を守る最後の防波堤となります。
著作物の利用許諾の確認項目
研修資料に他人の著作物(テキスト、画像、図表、動画など)を含める場合、以下の項目を一つずつ確認してください。
- 著作権の有無の確認
- 利用したい素材は、著作権法で保護される「著作物」か?(単なる事実やデータ、アイデアではないか?)
- 著作権の保護期間は満了しているか?(満了していればパブリックドメインとして原則自由に使える)
- 権利者の特定
- その著作物の権利者(著作者、出版社、ストックフォトサイトなど)は誰か、明確になっているか?
- Web上の素材の場合、そのサイト運営者が本当に権利者か?(無断転載サイトではないか?)
- 著作権法上の例外に該当しないか
- 無許諾で使える例外規定(「引用」など。後述)の要件を厳密に満たしているか?
- 注意:「社内研修」は、「学校教育の例外」には該当しません。
- 注意:「私的複製」にも該当しません(企業活動は「私的」ではありません)。
- 利用許諾(ライセンス)の確認・取得
- 例外に該当しない場合、権利者から利用許諾を得る必要がある。
- 素材サイト(有償・無償問わず)からダウンロードした場合、そのサイトの「利用規約」を精読したか?
- 商用利用(企業研修は商用利用とみなされる)は許可されているか?
- 研修資料への埋め込み(複製)は許可されているか?
- eラーニングでの配信(公衆送信)は許可されているか?
- 資料の改変(トリミング、色変更など)は許可されているか?
- 権利者(出版社、著者など)に直接許諾を申請した場合、許諾を得た証拠(メール、許諾書)を保存したか?
- クレジット・出所の明記
- 利用規約や「引用」の要件に基づき、必要なクレジット(著者名、サイト名、URL、©マークなど)を資料の然るべき場所(スライドの脚注、巻末など)に正しく記載したか?
引用に関する注意点
著作権法では、許諾なしで他人の著作物を利用できる例外規定がいくつかありますが、研修資料で最も関係するのが「引用」です。
しかし、「引用」が認められるには非常に厳格なルールがあり、これを満たさない利用はすべて「無断転載」=著作権侵害となります。
以下の「引用の4要件」をすべて満たしているか、厳重に確認してください。
- 【公表性】公表された著作物であること
- すでに一般に公開されている著作物である必要があります。
- 未公表の論文や、機密扱いのレポートなどは引用できません。
- 【主従関係】引用部分が「従」、自らの著作物が「主」であること
- これが最も重要な要件です。あなたの資料(スライド)の中で、あなた自身の意見、分析、解説が「メイン(主)」であり、引用する文章やグラフは、その主張を補強・説明するための「サブ(従)」でなければなりません。
- 悪い例
- スライド1枚が、他社のWebサイトのグラフと文章の丸写しで構成されており、あなたのコメントが「以下のグラフをご覧ください」の一言だけ。
- 良い例
- スライドの半分以上で自社の分析や考察を述べ、その根拠としてグラフを小さく掲載し、「この点について、〇〇(出典)は〜と指摘している」と説明を加える。
- 【明瞭区別】引用部分が明確に区別されていること
- カギ括弧(「」)、ブロッククオート(枠線で囲む)、フォントの変更などにより、どこからどこまでが引用部分なのか、本文と明確に区別できるようにしなければなりません。
- 【出所明示】出所(出典)を明示すること
- 「著作者名」「著作物名」「出版社名」「Webサイト名」「URL」「公表年月日」など、引用の慣行に従い、読者がその著作物を特定できる情報を適切に記載する必要があります。
これら4要件を満たさない「引用のつもり」は、すべて著作権侵害です。特に「主従関係」の要件は厳しく、研修資料で安易にグラフや文章をコピペすることは、ほとんどの場合「引用」とは認められないと考えるべきです。
資料作成時に避けるべき行動
以下の行動は、著作権侵害のリスクが極めて高いため、絶対に避けてください。
- × Google画像検索やPinterestで見つけた画像を、右クリックで保存してスライドに貼り付ける。
- ほぼ100%著作権侵害です。
- 権利関係が不明な画像は使わないでください。
- × 「社内用だから」「非公開だから」という理由で、許諾確認を省略する。
- 社内利用であっても、複製権や公衆送信権の侵害は成立します。
- × 「教育目的だからOK」と自己判断する。
- 企業研修は「営利を目的とする」活動であり、学校教育の例外(第35条)は適用されません。
- × 書籍や新聞記事をスキャンして、研修受講者全員にメールで一斉送信する。
- 典型的な複製権・公衆送信権の侵害です。
- × 他社のロゴマークや、キャラクターの画像を無断でスライドに使用する。
- 著作権だけでなく、商標権の侵害にも問われる可能性があります。
- × YouTube動画をダウンロードし、ファイルとして研修資料に埋め込む。
- 規約違反であり、著作権侵害です。
- リンクを共有し、各自のブラウザで視聴してもらうのが原則です。
- × 無料素材サイトの利用規約を読まずに、「無料だから」と安易に利用する。
- 「商用利用不可」「改変禁止」「クレジット表記必須」など、サイトごとに厳しい規約があります。
- 規約違反は許諾違反となり、侵害にあたります。
社内規定の整備
個人のリテラシー任せにせず、組織としてのルールを明確に定めることが重要です。
- 著作権ガイドラインの策定
- 自社における著作物利用の基本方針(自作優先、許諾必須など)を明文化します。
- 推奨素材データベースの構築
- 会社として契約している有償ストックフォトサイトや、利用規約を法務が確認済みの安全なフリー素材サイトをリスト化し、原則としてそこからのみ素材を利用するように周知します。
- 相談・承認フローの確立
- 「こういう使い方をしたいが、法的に問題ないか?」を気軽に相談できる窓口(法務部、知財部、または任命された担当者)を設置します。
- 特に、社外に公開する資料(セミナー資料、Web掲載、eラーニング教材)については、法務部門の承認を必須とします。
- インシデント対応マニュアルの準備
- 万が一、外部から権利侵害の指摘(クレーム)を受けた場合の対応フロー(一次受付、法務へのエスカレーション、資料の即時取り下げ手順など)を定めておきます。
第三者の著作物利用についてのガイドライン
研修資料作成者が、今すぐ守るべきシンプルな行動指針です。
- 第一原則:「自分で創る」
- 図表、イラスト、テキストは、可能な限り自分で作成する(自作する)。
- 自社で作成したものは、自社の著作物(法人著作)となり、自由に利用できます。
- 第二原則:「(創れないなら)安全な場所から買う・借りる」
- 自作が難しい写真やイラストは、会社で契約した有償素材サイトから利用規約の範囲内で利用する。
- 無償サイトを使う場合は、利用規約を隅々まで読み、「商用利用可」「クレジット表記不要」などを確認する。
- 第三原則:「『引用』は最後の手段」
- どうしても他者の文献やグラフを使いたい場合は、「引用の4要件」を完璧に満たせるか自問する。主従関係を満たせない(=それがメインコンテンツになる)なら、それは「引用」ではなく「転載」であり、許諾が必要です。
- 第四原則:「迷ったら、法務(または上長)に聞く」
- 「これ、グレーかな?」と思った時点で、その素材の使用は中止し、専門部署に相談する。その「一瞬の迷い」が会社を救います。
著作権侵害を避けるための法的知識
チェックリストを正しく運用するには、その背景にある「法律のロジック」を理解することが近道です。特に、企業研修で最も誤解されがちな「教育目的の例外」や、安全に使える素材の代名詞である「クリエイティブ・コモンズ」など、実務に直結する法的知識を整理します。
この知識が、あなたの判断に自信を与えます。
著作権法の基礎知識
これまで述べてきたように、著作権法は「著作者の権利」を守るための法律です。研修資料作成において、常に意識すべきは以下の権利の侵害です。
- 複製権
- 資料に画像を貼り付ける、書籍をスキャンする、データをコピーする行為。
- 公衆送信権
- 社内サーバーやLMS(学習管理システム)にアップロードする、Web会議で画面共有する、メールで一斉送信する行為。
- 同一性保持権
- 画像をトリミングする、テキストを要約・改変する行為(※著作者人格権)。
これらの行為は、すべて著作権者の「許諾」がなければ原則として行えません。
著作権の例外と制限
著作権法には、一定の条件下で許諾なしに著作物を利用できる「権利制限規定」が設けられています。しかし、企業研修の担当者が最も注意すべきは、「企業研修には適用されない例外」の存在です。
- NG:私的複製
- 「個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的とする複製は認められています。
- なぜ企業研修はダメか?
- 企業という組織内での利用は、「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」には含まれません。
- 会社の業務として行う複製は、すべて「私的複製」の範囲外です。
- NG:学校その他の教育機関における複製等
- これが最大の誤解ポイントです。
- この条文は、「学校その他の教育機関(営利を目的としないもの)」において、授業の過程で必要な範囲であれば、著作物を複製・公衆送信できる、という例外を定めたものです。
- なぜ企業研修はダメか?
- 条文が明確に「営利を目的としないもの」と限定しています。
- 企業が社員のスキルアップや業務遂行のために行う「社内研修」は、営利活動の一環とみなされます。
- したがって、この例外規定は適用されません。
- ※唯一の例外として、企業内でも「障害者のための福祉目的」での複製などは別途認められる場合がありますが、一般の研修には当てはまりません)
- OK(条件付き):引用
- 前述のチェックリストの通り、厳格な4要件(公表性、主従関係、明瞭区別、出所明示)を満たした場合にのみ、適法な「引用」として許諾なしの利用が認められます。
結論として、企業研修の資料作成において、「許諾なし」で使える法的根拠は、事実上「厳格な要件下での引用」または「パブリックドメインの利用」しかない、と認識するのが最も安全です。
クリエイティブ・コモンズライセンスについて
近年、「クリエイティブ・コモンズ(CC)」ライセンスが付与された著作物が増えています。これは、「この条件を守れば、私の著作物を自由に使って良いですよ」という著作者による「意思表示」のマークです。
CCライセンスは、一見すると自由に使えるように見えますが、研修資料で利用する場合は、特に以下の記号の組み合わせに注意が必要です。
- BY(表示)
- 著作者名、作品名、ライセンスなどの「クレジットを表示」すれば、改変も商用利用もOK。最も自由度が高いライセンスです。
- NC(非営利)
- 「非営利目的」でのみ利用可。
- 企業研修での注意点:社内研修であっても、企業の営利活動の一環であるため、「商用利用」とみなされる可能性が極めて高いです。「NC」が付いている素材は、企業研修での利用は避けるのが賢明です。
- ND(改変禁止)
- 元の作品を改変(トリミング、色変更、要約、BGMの差し替えなど)することを禁止します。そのままの形で利用するしかありません。
- SA(継承)
- その作品を改変したり、利用したりして新しい作品(研修資料など)を作った場合、その新しい作品にも「同じCCライセンス(SA)」を付けなければなりません。
- 自社の機密情報を含む研修資料を、社外に「SA」ライセンスで公開する義務が生じてしまうため、企業利用には全く適していません。
企業研修での安全な使い方
企業研修でCCライセンス素材を使う場合、実質的に利用可能なのは「CC BY」または「CC BY-ND」(改変しない場合)の2種類と考え、かつ「NC」や「SA」がついていないことを厳重に確認する必要があります。
パブリックドメインと研修資料
パブリックドメイン(PD)とは、著作権の保護期間が満了した著作物や、著作者が権利を放棄した著作物を指します。これらは人類の共有財産であり、原則として誰でも自由に、許諾なしに利用(複製、改変、商用利用)できます。
- 例:レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」、シェイクスピアの戯曲、ベートーヴェンの交響曲など。
注意点
- 著作者人格権
- 著作者の死後も、著作者の名誉を傷つけるような利用(同一性保持権の侵害)は禁じられています。
- 二次的著作物
- 元の作品(例:モナ・リザ)はPDでも、それを撮影した「写真」や、高品質にスキャンした「デジタルデータ」には、撮影者や美術館の新たな著作権が発生している場合があります。
- 「PD」と表示されている素材でも、それが本当にPDかどうかは慎重な確認が必要です。
オンラインコンテンツの利用と著作権
Webサイト、ブログ、SNS(X, Instagramなど)、YouTubeは、著作物の宝庫であると同時に、著作権侵害の温床でもあります。
- Webサイト・ブログのテキストや画像
- すべてに著作権があります。
- 前述の「引用」の要件を満たさない限り、コピペやスクリーンショットでの利用は許諾が必要です。
- SNS(X, Instagramなど)
- 投稿された文章や写真には、投稿者の著作権があります。
- 「リツイート」や「埋め込み」機能は、そのプラットフォームの規約内で認められた「共有」の方法です。
- しかし、投稿された画像をダウンロードしてスライドに貼り付ける行為は、これらの機能とは全く異なる「複製」であり、著作権侵害にあたります。
- YouTube
- 動画には、投稿者(または制作会社)の著作権があります。
- NG行為
- 動画をダウンロードしてオフラインで再生する、動画の一部を切り取って資料に埋め込む。
- OKな利用法
- 研修中に「この動画をご覧ください」とYouTubeへのリンクを示し、受講者各自のブラウザで(YouTubeのサイト上で)視聴してもらう。これは著作権侵害にはあたりません(ただし、違法アップロードされた動画を視聴することは推奨されません)。
著作権に関する最新動向

著作権法は、テクノロジーの進化と共に変わり続ける「生き物」です。特に、AI(人工知能)による生成物やデジタルコンテンツの扱いは、研修担当者にとっても全く新しい課題となっています。この章では、今まさに議論されている最新の動向を掴み、一歩先のコンプライアンス体制を築くヒントを探ります。
デジタルコンテンツと著作権
eラーニング(LMS)やWeb会議システム(Zoom, Teamsなど)の普及により、研修資料は「紙」から「デジタルデータ」へと移行しました。これにより、利便性が向上した一方で、著作権リスクは増大しています。
- 複製・配布の容易性
- デジタルデータは、クリック一つで寸分違わず複製(コピー)され、瞬時に世界中に配布(公衆送信)できてしまいます。
- 紙の資料を一部コピーするのとは、侵害の規模と速度が異なります。
- 公衆送信権の重要性
- 研修資料を社内サーバー、LMS、クラウドストレージ(Google Drive, Dropboxなど)にアップロードする行為は、すべて「公衆送信権(送信可能化権)」に関わります。
- たとえアクセス制限をかけた「社内限定」であっても、権利者の許諾が必要です。
- スクリーンショットの扱い
- Web会議での画面共有や、閲覧中のWebサイトをスクリーンショットで撮影し、資料に貼り付ける行為も「複製」にあたります。
- 安易に行うべきではありません。
- 技術的対策の必要性
- eラーニング教材を配信する場合、ダウンロード禁止設定、ウォーターマーク(電子透かし)の挿入、アクセスログの管理など、技術的な保護措置を講じることが、権利者への説明責任(万が一の流出時の対応)として重要になります。
AI生成物と著作権の問題
生成AIの登場は、著作権の枠組みを大きく揺るがしています。研修資料(特にイラストや挿絵)作成にAIを利用しようと考える担当者も多いでしょう。しかし、そこには2つの大きな論点があります。
- AIの「学習データ」の問題(インプット)
- AIは、インターネット上の膨大なテキストや画像を「学習(ラーニング)」して生成能力を身につけます。この学習データに、既存の著作物が大量に含まれている(無断で使われている)可能性があります。
- リスク
- AIが生成したアウトプットが、学習元となった特定の著作物(例:特定のアーティストの画風や、特定の写真)に酷似してしまう「意図しない侵害」が発生する可能性があります。
- 対策
- 企業研修で利用する場合、学習データが権利クリアであることを保証している、または生成物の商用利用に関する「法的補償」を提供しているAIサービスを選択することが、リスク回避のために強く推奨されます。
AIの利用は効率化に繋がりますが、当面は「学習元がクリーンなサービスを選び」「生成物が他者の権利を侵害していないかチェックし」「自社の著作権も発生しない可能性がある」という前提で、慎重に運用すべきです。
著作権法改正の動向
著作権法は、デジタル化やAIの進展に対応するため、頻繁に議論・改正が行われています。
- ダウンロード違法化の範囲拡大
- 以前は音楽・映像のみが対象でしたが、2021年の改正で、違法にアップロードされたと知りながら、漫画、書籍、論文などの「静止画・テキスト」をダウンロードする行為も、私的利用であっても違法となりました。
- 研修の参考資料として、違法な「海賊版サイト」から論文などをダウンロードすることは許されません。
- AIと著作権に関する議論
- 文化庁の審議会では、AIの学習(インプット)段階での著作物利用の是非や、生成(アウトプット)段階での権利侵害の考え方について、活発な議論が続いています。
- 企業は、これらの議論の方向性や、今後示されるであろうガイドラインを注視し続ける必要があります。
国際的な著作権保護の動向
著作権の保護は、日本国内だけの問題ではありません。特に、海外拠点を持つ企業や、多国籍のチームが研修資料を共有する場合は注意が必要です。
- ベルヌ条約(Berne Convention)
- 日本を含む多くの国が加盟しており、「無方式主義(創作と同時に権利発生)」や「内国民待遇(自国民と同様に他国加盟国民の著作権も保護する)」を定めています。
- グローバル研修でのリスク
- 日本で作成した研修資料(米国の写真を使用)を、米国の拠点で利用する場合、米国の著作権法(特に「フェアユース」の考え方)も関係してきます。
- 逆に、米国で作成された資料を日本で使う場合も同様です。
- 越境配信(CDN/海外LMS)
- LMSを通じて海外拠点に研修動画を配信する行為は、各国の「公衆送信権」に関わります。
- ライセンス契約において、配信可能地域(「日本国内限定」なのか「全世界」なのか)を明確にしておく必要があります。
企業として注目すべき著作権ケース
近年、企業が「知らなかった」では済まされない著作権侵害の事例が目立っています。
- Webサイト画像の無断使用に対する高額賠償
- 自社のコーポレートサイトやブログに、安易にWeb検索で見つけた写真(特にストックフォトの「カンプ画像」=透かし入りの見本画像)を無断で使用し、権利者(ストックフォト会社)から高額な使用料(通常のライセンス料の数倍〜数十倍)と損害賠償を請求されるケースが多発しています。
- これは研修資料でも全く同じリスクがあります。
- フォントのライセンス違反
- PC1台分のライセンスしかない有償フォントを、社内の複数のPCにインストールしたり、サーバーにアップロードしてWebフォントとして使用したりする行為は、ライセンス違反であり著作権侵害です。
- 研修資料のデザイン性を高めようとした結果、大きな問題に発展することがあります。
- AI生成物の類似性問題
- AIで生成したイラストが、既存の特定のキャラクターや作品に酷似していたとして、SNSで「炎上」し、使用を中止する事態が起きています。
- 企業が研修資料や広告でAI生成物を利用する際は、この「類似性チェック」が新たなコンプライアンス上のプロセスとして求められ始めています。
これらの動向は、企業研修の担当者に対し、「これまで以上に厳格な権利意識」と「新しいテクノロジーに対する正しい法的知識」の両方を求めていることを示しています。
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