人に何かを教えたことがある人は多いと思いますが、人が解くテストを作ったことがある人、さらには良い試験を作るのが得意という人はなかなかいないでしょう。
はじめて試験の作成に取り組まれる方向けに、試験作りの第一歩について解説します。
試験の作成に取り組む際に、まず着手すべきことは、試験の目的を明確にすることです。
このステップは試験の基盤を整える最も重要なステップであり、かつ、最もつまずきやすいステップでもあります。オンライン試験を成功させるための最初の一歩として、丁寧に取り組みましょう。
試験を実施することで得られるものを考えよう
そもそも試験を実施することで得られるものは何でしょうか?
結論から言うと、それは受験者の「情報」です。
試験を実施することで、それぞれの受験者の得点が得られます。得点は、受験者がどの程度の知識や能力を有しているかを数値化したものです。数値として得られた受験者の情報を使って、何がしたいのかを明確化しましょう。
例えば学校の小テストであれば、授業で学んだことをきちんと理解できているか、つまずいている点はないかという「情報」を得て、今後の授業の計画や生徒へのフォローを行うことなどが目的になるでしょう。
また、社内の昇進試験であれば、候補者に、上位職の複雑な業務に携わるために必要なマインドやスキルがあるかを把握し、誰を昇進すべきかの意思決定を行うことが目的になるでしょう。
テーマを選ぼう
試験の目的を明確化したら、次はその目的を達成するために、どのようなテーマから出題するかを決めます。すでに出題範囲が明確になっていて、テーマを容易に決定できる場合もあれば、テーマの選定が難しい場合もあるでしょう。
テーマ選定のコツは、測定しようとしている知識やスキルをすでに身につけている人をピックアップし、その人物が備えている能力や、行動の特徴をリストアップすることです。
優秀なマネージャーや成果を出している営業などロールモデルとなる人物を定め、どのような能力の集合体になっているか、テーマごとに分けていきましょう。
具体的な人物がいない場合は、理想となる人物をイメージするのがいいでしょう。
例えば、文部科学省では、未来で必要となる力を定め、その力を育むために必要な要素として
- 知識・技能
- 思考力・判断力・表現力
- 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
を挙げ、「学力の3要素」として、これからの学校教育の評価に用いていくとしています。
知識やスキルを備えた上で、それらを使って自ら考えて判断し、相手にわかるように表現できる力を有している、さらには、その力を個人に留めるのではなく、多様な他者と主体的に関わり合いながら学び、協働していける力を養うことが、未来を担う子どもたちに必要である、という考えが基礎として据えられています。
みなさんが準備される試験でも、測定する知識や能力を備えた理想像となる人物に、どのような特徴があり、どういったテーマから出題すればその特徴に関する情報が引き出せるかを考えてみましょう。
認知領域の3類型について
出題範囲のテーマが決まったら、どのような問題を準備すべきかを考えましょう。
実技試験ではなく、問題に解答していくタイプのオンライン試験では、受験者の知識や思考力、判断力を測定するのが一般的です。
「学力の3要素」と照らし合わせた場合、1と2を測定していると言えるでしょう。
知識や思考力は認知領域と呼ばれ、認知領域の評価の方法としては、一般的に以下の3分類が用いられています。
- I型: 「想起」単純な知識を思い出して解く問題
- II型: 「解釈」 問題文で与えられた情報を読み解き、その結果に基づいて解答する問題
- III型: 「問題解決」問題文の解釈だけでなく、選択肢が持つ意味を解釈するなど、複数回の解釈が求められる問題
特定の単語や年号を覚えているかどうかを問う問題はI型に分類されます。
グラフや表、長文を読み取って正解を選ぶタイプの問題はII型です。選択肢の内容を見て、さらに読み解きを行い、問題文と選択肢をいったりきたりしながら解く必要のある問題がIII型です。
手っ取り早く問題を作成する場合、I型の問題を大量に作成するのが簡単でしょう。ただし、試験の目的が記憶力の測定でない限り、I型の問題ばかりを出題することは試験の目的に則していないと言えます。作問に要する手間暇と難易度は上がりますが、II型やIII型の認知領域が問われる問題も含めるようにしましょう。
また、せっかくII型、III型の良い問題文ができたとしても、選択問題の場合、間違いの選択肢がふざけたものだったり、ありえない内容の場合は、I型の問題になってしまうケースもあります。間違いの選択肢についても、適当な内容にするのではなく、吟味して設定するようにしましょう。
試験の目的の明確化は、試験作りの土台をなすとても大事なステップです。
すぐに問題作りに飛びつかず、まずは目的の明確化に腰を据えて取り組むようにしましょう。